研究員ブログ

鯨文化

先日、反捕鯨団体「シー・シェパード」の妨害船「アディ・ギル号」が南極海で日本の調査船と衝突し沈没した事故がありました。調査捕鯨というものは世界的に認められた行為であり、国際法上何ら問題はない行為ですが、要は日本と欧米の価値観、文化の違いによって起こる摩擦であるといえます。

 少し前までは、欧米でも捕鯨は一般的でした。主に鯨の油を原材料として使うためです。このことは過去に何度も映画化され、世界でも題名を知らない人はいないだろうと思われる有名な小説『白鯨』を読めば分かります。ただ、鯨を食べるという文化は世界でも稀ではあるでしょう。日本にとって鯨は文化史や産業において「動物」ではなく「魚」であり、この文化には日本人特有の畏怖や感謝の念があらわれている事柄があります。

 日本全国各地には、昔から鯨を供養するための神社やお寺、鯨のお墓や碑などが数多く存在し、(イルカもある)愛媛県でも伊予市や西予市、宇和島市、伊方町、瀬戸町、愛南町などに存在します。そのほとんどは鯨に対する追悼や感謝の念からで、飢饉に苦しんでいた村に鯨が打ち上げられ飢えをしのぐことができたため、感謝の気持ちから建てられた話や、母と子の鯨を捕獲した際に母鯨の死骸に子鯨が母乳を飲むような姿で離れようとせず、結局子鯨まで死なせてしまい、その様を見て食べるに忍びずお墓を建てて供養した話などがあります。

 ある話で、欧米で反捕鯨活動をしていた女性が訪日して鯨を祭る神社を訪れ、感極まって涙したことがあるそうです。反捕鯨国家のどこにも、これほど鯨を大切にする文化は無かった、と。彼女は後に、文化由来の捕鯨は認めるべきと立場を変えたとのことです。

 お互いの価値観、文化を理解することも必要なのではないかと思います。

   

    (企画研究部門 研究員 向井浩司)