研究員ブログ

図書館が四国を救う!?

 近年、自治体の商工部門と連携した公共図書館によるビジネス支援サービスが地域経済活性化策として注目されています。その中で「四国地区において商工部門と図書館の連携をどのようにすすめていけばよいか」を考えるためのセミナーが昨日(5月22日(火))、愛媛県立図書館で開催されました。

 セミナーでは、ベンチャー論の第1人者で、ビジネス支援図書館推進協議会顧問でもある竹内利明電気通信大学客員教授による講演、四国経済産業局地域経済部新規事業課による意見発表、そして最後に、愛媛県立図書館、松山商工会議所による2本の事例報告が行われました。ここでは講演の模様をご報告します。

 講演では、これまでの経済活動による社会状況の変化(キャッチアップ経済からフロントランナー経済へ)に、現在の教育活動が十分に対応できていないことをあげ、「答えがわかっていないものにチャレンジをする教育」、「自分で物事を深く考える、掘り下げるという作業をすることを通して、あたらしいことにチャレンジできる人材を育てる教育活動」を実践していく必要性をあげられ、それが広義の意味での「知的財産」となり、日本はそういった知的財産を多くもつ「知的財産立国」を目指さなければならないと述べられていました。

 そういった知的財産である人材を増やすためには、多様な地域情報を提供することが重要と竹内氏は述べます。

 たとえば、企業経営においては従来から自己判断、自己責任が求められてきましたが、自己判断するためには情報が必要で、そのためには情報にアクセスできる環境を整えることが重要になって行きます。情報がなければ判断をくだすことができないからです。
 また、地域住民の生活においても同様で、生活全般で多種多様な課題に直面にしており、それを最終的に自己責任において解決するためには、多くの情報が必要だからです。その多くの情報の中から課題解決をするための情報を選び出すのは住民であり、行政はその多種多様な情報を提供し、幅広い選択肢を用意することが重要だということです。

 さて、そういう地域経済や地域活性化の行政担当セクションといえば、だいたい商工・産業政策部門になります。これには民間では商工会議所なども含まれます。このセクションにはさまざまな起業やビジネスに関する有益な情報が集まってきており、数多くの情報をかかえていますが、限られた人の利用ぐらいしかなく、これは市民の側にたって考えると、わざわざ役所や商工会議所へ行って情報をもらうということになると、「ちょっと敷居が高いから利用がしにくい」というのが主たる理由のようです。

 その敷居の高さを克服する意味において、市民にとって敷居の低い、比較的利用が多く、親しみのある図書館と協力することは非常に有益だと氏は述べ、「市民から見れば商工・産業政策部門も図書館も同じ役所であり、縦割り行政論理は通用しない」とも述べられていました。

 具体的に言えば、起業や資格取得など、ビジネスに役に立つ情報を集約して図書館の開架室の一区画に設置し、図書館司書が訪問者のビジネスに関する具体的な相談にも応じて、相談に応じた多様な情報提供を行うというコーディネーター的な役割を担うといったことになります。

 この図書館による特化した情報提供サービスの実施は、あまり予算がかかることのない、いわゆる「ゼロ予算」でできる行政サービスであり、ビジネス情報支援に特化するのではなく、医療情報支援、子育て支援など幅広い分野に広げることができる性格のものです。

 これまでの本の貸し出しのみを業務とするような受身的な要素の強い図書館を、住民の生活課題解決のために積極的に情報を提供していく知的財産拠点として位置づけ、図書館司書にはその情報提供のためのコーディネーター役をになうことがこれから求められており、多様な住民のニーズに応えることによって、住民の側には住民自治の力が、また一方で図書館司書の側も住民の満足する情報提供を行うために、資質も自然と向上するという副次的効果も最後に述べられていました。

 このような「ビジネス支援サービスを行う図書館」は、これまでの市民における「図書館に対するイメージ」を大きく覆すような可能性を秘めていると思ったのは私だけではないはずです。地域の情報通は、図書館の利用上手ということになるのでしょうか。

 現在、愛媛県でビジネス情報支援サービスを行っているのは、愛媛県立図書館と新居浜市立別子銅山記念図書館の2館で、そのほかに宇和島市立図書館、西条市立図書館がサービス導入を検討しています。

 この「図書館におけるビジネス支援サービス」に興味がある方は、愛媛県立図書館(089-941-1441)まで直接お問い合わせください。

 追加ですが、行政関係者の方、各担当課で購入した雑誌や書籍を古くなったからといって年度末などに捨ててはいませんか? そういったものを捨てずにぜひ図書館に寄贈していきましょう。それが「知の蓄積」につながり、知的財産となるのです。

(文責 まちづくり活動部門 研究員 谷本英樹)