研究員ブログ

四国経済連合会産業委員会主催講演会

29日(火)、四国経済連合会産業委員会主催の講演会が松山全日空ホテルを会場に行われました。テーマは「地域イノベーションと産学連携」。地域イノベーションや起業家形成にくわしい横浜国立大学大学院教授の三井逸友教授を講師に、「今日における地域イノベーションの可能性-地域の再生に四国の強みを活かす」という演題で講演をしていただきました。

講演では、まず「『地域問題』の現実」ということで、現在の地域間格差(高齢化、所得、失業率、経済指標など)の現状説明があったのち、それぞれの背景には例えば「経済のグローバル化」や「生活様式の変化」、「バブル崩壊による地域振興策の破綻」、「地方分権化の停滞」、「地域コミュニティの崩壊」などがあると述べられていました。

このような経済面でのグローバル化が見られるようになると、今までの「ものづくりの経済(=画一化された商品を大量かつ安価に作る経済)」では立ち行かなくなることが予想され(たとえば、安価な労働力の地域へどんどん工場が移転してしまう)、「量」や「値段」でない、「質」や「オリジナリティ」といった新しい価値で勝負することが求められ、多様化した人々の好みにあわせて新しい商品や新しい製造方法を創り出す必要がでてきます。

そういう「新しい価値を創り出す(=イノベーション)」経済社会のことを知識基盤経済(=研究開発などによって生み出される知識をいかに新しいプロダクト(商品やサービス)やプロセスに結びつけて市場や企業に導入し、経済成長を維持し持続的発展を可能にしようとする経済)」といい、知識基盤経済においては「地域こそが創造と革新の原点」であり、「新しい価値を創造した経済活動は地域で生まれる」と述べられていました。

なぜ、地域こそが創造と革新の原点となりうるのか。それは地域にこそ「新しい価値の創造の源泉」があるからです。たとえば、普段ある何気ないモノが実は価値があったりして、それがビジネスのチャンスとなるという流れの中で、普段ある何気ないものとはまさしく「地域にある」わけです。

問題はその地域の何気ないモノ(=これを「暗黙知」ともいいます)に価値を見出すのは「地域の人間」です。ただ、その価値を見出すのは非常に難しい。そのためには見出す能力といったものが必要になってきます。それを身に着けるためのものが「地域を知るための学習」となるわけです。

ただ、たったひとりが地域にあるモノの価値に気づき、それを活かして起業しようとしても、いろいろと不都合や困難な面がでてきます。それを克服するのに必要なのが「人的ネットワーク」です。

たとえば、これまでにはないモノをつくる際に、自分では解決できずに、どうしてもこえなければならない新しい技術が必要になってきたとします。その技術を開発してもらうために必要な研究者や技術者を自分が知っておかなければ前に進みません。しかも、その研究者や技術者は自分が見出した新しい価値について理解してもらう必要があるわけです。そうなると、遠くの人よりもより地元に密着している人物のほうがわかりやすくなります。

また、資金援助をお願いしたいと思っても、遠くの金融機関よりも近くで地域に密着している金融機関を選んだほうが話がしやすくなります。それだけ地域のことを知っているからです。また、それにかかるさまざまな規制などを撤廃するためには行政の協力も必要になってきます。そうなると国よりは地方自治体のほうが都合が良くなってきます。

そうした地域を軸とした住民、行政、企業、研究者や金融機関といった枠組みで産業をおこすことができる環境や状態のことを「産業クラスター」と呼び、それが「地域イノベーション」を促進する環境となるわけです。

ただ、研究者側も金融機関側、行政の側も、ただ待っているだけではだめで、攻めの姿勢というか、積極的に地域のことを知り、連携していくことを通せば、また新しい価値を見出し、起業家精神をもつ人材育成を図ることにもつながりますし、あわせて人的ネットワークを広げることにより、自分たち自身も研究活動やビジネスチャンスをつかむことが重要になってくるということです。ゆえに、「産官学」の連携が叫ばれているのでしょう。

しかしながら、ここでの最大の問題点は、地域に関心や問題意識を持ち、新しい価値に気がつき、起業家精神をもつ人材をどれだけより多く育成、輩出、発掘するかという根本なことでしょう。残念ながら時間の都合で講演の中では多くは語られなかったのですが、「起業をした人はその地域で高い教育を受けて、一度外へでて地域に帰ってきた人材が多い」というお話しは、過疎で苦しむ地域にとっては非常に勇気付けられる内容だったように思います。地元で起業したいと思えるような教育を行えば、都会に出て行った人が地域へ帰ってくるということにつながるというのはちょっと言い過ぎでしょうか?

「まちづくりは人づくり」、「まちづくりには『よそもの』『ばかもの』『わかもの』」とよく言われますが、どんなことでもやはり人材育成ということが大きな鍵を握るということなのでしょうか。

(文責 まちづくり活動部門 研究員 谷本英樹)