研究員ブログ

地域づくり人養成講座(第3回)

8月29日(水)、地域づくり人(びと)養成講座の第3回目の講座が宇和島市の遊子地区で行われました。

今回の講座のテーマは、「地域コミュニティ」。学習の中では「地域の景観を活かしたコミュニティづくり」という内容でした。
最近、まちづくりや地域づくりの研修会などでも「地域コミュニティの崩壊」といった言葉がよく使われているので用語自体は聞いたことがある人も多いと思われますが、実際にはどのように位置づけたらよいのでしょうか。

ここでは、愛媛大学と松山市が共同で制作した「地域コミュニティづくりのすすめ」という冊子の定義を引用して、答えにかえておきたいと思います。

「コミュニティとはよりよいまち、生活の質の高いまちを創るために、そこに住んでいる人自らが主体となって連携・協力し、地域の課題を見出し、その解決策をみんなで考え実践していく地域・住民の自治組織」であり、「まちづくりに関しては行政と対等なパートナーの関係であり、従来の町内会や自治会に多く見られた行政の下請け的な存在」ではない。

さて、今回の講座の会場となった遊子地区の場合は、おもに自治会を中心としたコミュニティが形成されていますが、地域の課題や行事ごとについてはすべて自治会の常会の議決を必要とし、地域内の課題については自治会でなるべくすべてのことを責任を持って対応し、それぞれの自治会単位(遊子は8地区)ではなく遊子地区全体で、それでも対応できない場合は行政に交渉するという形ができています。

したがって、自治会で決まったことはほとんどの世帯が決まりを守り、地区行事にも自治会長を中心に団結して積極的に参加する習慣ができあがっています。

この遊子地区のコミュニティの団結力の根本には、地区民の生活を支えてきた遊子漁協の存在が欠かせず、遊子漁協の指導の下で組合員の共助の仕組みをつくりあげて、すべての組合員が共倒れしないような方式をとってきており、生活に根ざした共助の仕組みがあったからと言われています。

現在、遊子地区においても少子高齢化やサラリーマン世帯が増えて、青年団や婦人会といった社会教育団体が解散するなど、コミュニティの力がだんだんと弱くなってきたといわれていますが、生活に根ざした共助の仕組みの文化があるゆえに、宇和島市の他の地区に比べるとコミュニティのもつ団結力は依然として強いものがあるといわれています。

今回の講座では、そんな遊子地区のひとつの集落である水荷浦(みずがうら)地区にある「段々畑」を学習素材としました。地元の人たちはこれを「段畑(だんばた)」と呼んでいます。この水荷浦地区の段畑は、今年の7月に文化庁より「重要文化的景観」に選定されています。遊子地区では段々畑を活かした地域づくりをどのようにしているのか、そのあたりが学習課題となってきています。

この重要文化的景観とは、生活文化によって生まれた風景や景観(=文化的景観)のうち、国が特に後世にのこしていくべき重要なものと選定したものをいい、「遊子水荷浦(ゆすみずがうら)の段畑」がこの重要文化的景観が選定されたのは、中・四国地域以西でははじめてであり、全国でも3例目となっています。

今回の講座の学習では、まずその段々畑を海から味わおうということで、「段畑遊覧タクシー」を利用して宇和島新港から遊子水荷浦地区へと移動し、船長の山内正さんのガイド説明を受けながら遊子地区へ向かいました。

遊覧タクシー1 遊覧タクシー2 遊覧タクシー3

※段畑遊覧タクシーの様子

その後、学習会場となった「えひめ南農協宇和海第1支所」の2階で、宇和島市教育委員会文化課の廣瀬学芸員より、遊子地区の概要と「重要文化的景観」についての講義をしていただきました。

廣瀬氏

※講義の様子

その後は、受講生お楽しみの昼食タイムです。今回は、地元のNPO法人「段畑を守ろう会」の女性部のみなさんにお願いして、遊子地区の海の幸をご用意していただきました。是が一番の楽しみと喜んでいた方もたくさんおられたようです。

昼食

※昼間から鯛めし!豪快です!
(一番人気は海藻サラダの白味噌ドレッシングでした)

昼食後、受講生のみなさんはバスで水荷浦地区の段畑へ。そして、「耕して天に至る」とも形容される石垣がおりなす圧倒的な風景を、市教委文化課の梅村係長と廣瀬学芸員が歩きながら説明し、NPO法人「段畑を守ろう会」の副理事長松田鎮昭さんから、水荷浦地区段畑の概要と段畑を守ろう会の活動について説明をしていただきながらフィールドワークをいたしました。

フィールドワーク

※フィールドワークの様子

松田氏

※松田さんの説明
(新たな取り組みとして今年の冬にはじゃがいも焼酎ができるお話などもしていただきました)

フィールドワークの後、 指導講師の前田先生からグループ学習のテーマ設定に関する大枠について説明を受けたのち、それぞれの班でテーマ設定を含めてグループワークを行い、最後にまとめと発表を行って前田先生の講評を受けました。

グループワーク グループワーク2

※グループワークの様子

発表の様子 発表1

※発表の様子

そして、学習終了後に学習会場となったえひめ南農業共同組合宇和海第1支所で、地元の人たちを交えて「オフライン交流会」を行いました。この日は、宇和島で開催ということで、今年の3月末まで当センターに在籍していた井石さん(現:宇和島地方局商工労政課)、兵頭さん(現:宇和島市役所美化推進課)、脇田さん(現:愛南町役場総務課)も、オフライン交流会にかけつけていただき、現在の受講生と交流を深めました。

よるごはん

※オフライン交流会の食事
(あの噂の「鯛バーガー」も登場しました)

交流会

※交流会の様子

今回の食事は、魚、海藻類など、デザート以外はすべて「遊子のもの」をつかった地産地消にこだわった料理になっています。
特に、以前の研究員ブログで紹介した鯛バーガーのほかに、水荷浦でつくった馬鈴薯をつかったおまんじゅう(いわゆる「蒸しパン」みたいなもの)もお菓子として出していただきました。

そのほかでは、鯛、ヒラメ、カンパチなど、遊子の新鮮な魚の刺身も用意され、おまけにお土産として遊子産のひじきも用意していただき、参加者は遊子をまるごと満喫した一日だったように思います。

地元受け入れをしていただいた市教委文化課の職員の方々、NPO法人段畑を守ろう会のみなさん、段畑遊覧タクシーの山内船長さん、そして特に段畑を守ろう会の女性部の皆さんには前日から料理の仕込みをしていただくなど、たいへんお世話になりました。この場をおかりして御礼申し上げます。

次回の地域づくり人養成講座は9月22日(土)に松山市西垣生地区で行います。受講生のみなさん、ふるってご参加ください。

(文責 まちづくり活動部門 研究員 谷本英樹)