研究員ブログ

ふるさと水と土シンポジウム

12月1日(土)に松山市にあります県女性総合センターで行われました「ふるさと水と土シンポジウム」(主催:愛媛県)に参加してまいりました。

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※会場の様子

このシンポジウムは、『みんなで守ろう!ふるさとのたからもの』と題し、「自然と共存しながら維持されてきた中山間地域の農業農村の営みや地域の魅力について、広く県民の皆様にご紹介し、ふるさとの農地や農村を保全する住民活動の重要性について考える(県庁HP引用)」ために開催されました。

はじめに、宇和島市出身のキャスター宮川俊二さんが登壇し、キャスターからみた農村(ふるさと愛媛)の魅力と題して基調講演をしました。

宮川さんは、ご自身が過ごした少年時代の宇和島の風景について語られ、「自分にとっての原風景は何か?と問われたときに私は自分の家の前の海の沖合いにある九島という島に沈む夕日であると答えるだろう」と述べられていました。

また、その自分の原風景が故郷を訪れる度に変わっていってしまっていることに触れ、どうしてそのようになってしまったのかというと、農業以外の商工業が地域にはいってきて、農村風景や農村らしさが消えていったからであり、それは決して悪いことだとは言うつもりはないが、やはりどこかふるさとの風景がなくなるというのはさびしいと思うとも述べられておりました。

また、宮川さんの御兄弟は8人いるそうで、全員が市外ででており、御両親がのこしたわずかな畑を宮川さんが相続されたそうですが、そのわずかな土地を耕すことさえままならず、いわゆる「耕作放棄地」となり竹害などもでてきて山が荒れてしまっているのが現状だそうです。

これは、農地法によって安易に農地を売買できない仕組みができあがっていることも理由のひとつであろうと述べられ、日本の場合、農業は「農家」という言葉に代表されるように、「家」で行われるものという考えが根底にあり、農業というものが「家」と密接に結びついていることの一例ではないだろうかと述べられていました。

そんな荒れた山をどうやって元にもどすのか?ということについて宮川さんは、「都市の力を借りるのもひとつの方法」と述べられていました。単に都市から耕したい人を農村にあつめるというのではなく、農村風景を守ることは都市のためになるということを密接に考えてもらうことが必要であると述べられていました。

具体的な方法として、「環境税」の話をされていました。現在、地球規模の温暖化がすすんでおり、全世界で二酸化炭素の排出量をへらす取組がすすめられています。その際に、都市と田舎で考えた場合、圧倒的に都市のほうが二酸化炭素の排出量は多く、反対に田舎は二酸化炭素を排出もしますが、自然も多く吸収するところでもあります。

したがって、その二酸化炭素の排出量を算出し、それに応じて税金を賦課して、実際に二酸化炭素を吸収している自然のある地域に税金をまわすシステムを構築するのはどうだろうか。そうすれば都市は税金を賦課されないように排出量を減らす取り組みをするし、田舎は田舎で自然を大切にするようになるのではないかと述べられていました。

このほかにもメディアを利用した広報戦略で宮崎県の東国原知事のお話があったり、NHK時代のお話があったりと、たいへんユーモアあふれる非常に示唆にとんだお話をしていただきました。

ちなみに、愛媛県でも森林保護、環境保護を目的とした森林環境税が平成17年度より導入され、住民税の均等割に500円加算されています。

基調講演のあとには、愛媛大学の桜井先生をコーディネーターに、5名の方がパネリストとして登壇してパネルディスカッションが行われました。

パネルディスカッションでは、農村景観や環境を守る取り組みをされている方から活発な意見が出されていましたので、ここでは南海放送の永江孝子アナウンサーが述べられた「松山市日浦地区の話」をご紹介します。

松山市の日浦地区は、ちょうど松山市の水がめである石手川の上流域・水源地にあたり、取材した日はちょうど芸世地震の直後であったそうで、日浦地区の住民たちに地震で壊れた石垣を修理するのはなぜかと尋ねたら、田んぼを復活させるためでもあるが、自分たちがここで水を保全する機能をとりもどさないと下流の人たちが困るからだという話を聞かされたそうです。

このことから、都市住民が快適な生活をおくれているのはこういう農村のひとたちのおかげであることを忘れてはいけないという話をされていました。永江さんは、だからこそ農村をみんなで守っていく必要があり、自分たちでできること、たとえばボランティア活動ができないのであれば、県産品を買うことでフードマイレージをためないようにするとか、そういった小さなことでも積み重ねていくことが必要ではないだろうかと述べられていました。

最後に、農村景観を守っていくために今後どうしていくことが求められるのかということの総括として、コーディネーター役の桜井先生より、「都市住民の景観や生態系保全などに対する関心は高い。だが実際にその地域に住んで農村を守っていくためにはある程度の整備が必要であり(たとえば農作道などのコンクリートの道とか)、それにより美しい景観が壊れてしまって、それを見た都市住民が批判するという保全と整備の間で対立がうまれてしまうことがある。そこには保全する側が美しい農村景観を維持することがどれだけ大変であるかを知ってもらうことがたいへん重要であり、その実態を明確にして上手に都市に発信することが必要だ」と締めくくられていました。

(文責 まちづくり活動部門 研究員 谷本英樹)