研究員ブログ

全国文化的景観地区連絡協議会総会

7月17日・18日にかけて宇和島市で行われました「全国文化的景観地区連絡協議会総会」に参加してきました。

この協議会は、「加盟する自治体が協同して文化的景観の保存整備に関する調査研究、施策の推進並びに情報交換を行い、もって文化的景観をはぐくみ地域住民の生活と文化の向上に資すること」を目的に設立されています。

そして、加盟自治体で持ち回りで年に1回総会を行うのですが、今年度は重要文化的景観に全国で3例目に選定された「遊子水荷浦の段畑」がある宇和島市で開催されたというわけです。

この総会にあわせて、全国の文化的景観選定地および選定候補地の紹介パネル展示や、記念講演、事例報告、情報交換会、現地視察が行われました。

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記念講演では、遊子水荷浦の段畑の保存管理計画策定委員会の委員をされていた広島大学大学院国際協力研究科教授の中越信和氏より「文化的景観への生態学的アプローチ-西四国の事例から-」という演題で、ドイツの文化的景観に関する事例と西四国の事例(遊子と高知県梼原町)を比較しながら、美しい景観を保存するまちづくりについて講演していただきました。

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総会が長引いた関係で当初の予定よりも若干講演時間が短くなったのは残念でしたが、ドイツの事例として、戦争で焼けた街を復興するのに、昔の写真にもとづいて同じ景色に復興した事例や、国土における文化的景観の選定エリアが1/4を占めていて日本が点であるのに対してドイツは面になっていること、景観保護指定地域で路上駐車をすると法律違反になるといったことなど、景観に対する認識の日独の差を紹介していただきました。

そして、遊子の景観保全を考える際に、古代日本では四国のことを「南海道」といっており、基盤は「陸」よりも「海」であったことに再度注目し、現代では陸(=陸上の生活)から海(=海の生活)を見ていることが多いが、もういちど海というものから陸をとらえなおすことが大事ではないか、「里山」ならぬ「里海」を目指していくべきでは?という指摘もいただき、文化的景観は世界遺産にもなる財産であることを述べられて話を締めくくられていました。

次に、事例報告では、すでに国の重要文化的景観に選定されている滋賀県の近江八幡市と高島市、そして今年度に選定される予定の熊本県山都町の3本の報告が行われました。

特に興味をひかれたのは熊本県山都町の文化的景観です。このたび選定される山都町の文化的景観は観光地としても有名になっている「放水する橋」である「通潤橋」を中心とした「通潤用水と白糸台地の棚田景観」です。

この「通潤橋」とは、嘉永7年(1854)に地元の惣庄屋(そうじょうや)であった布田保之助(ふたやすのすけ)が企画、石工達の当時の最高技術を駆使し、村民の献金と労力奉仕のもとに完成したもので、全国でも最大規模の単一アーチ式眼鏡橋として昭和35(1960)年に国の重要文化財に指定されています。

そして注目すべき点は、この通潤橋が「住民たちの献金と労力奉仕でできた橋」ということで、いまでも通潤橋の運営は江戸時代の運営方法を踏襲して住民のみなさんが主体的に行っているということです。

橋をかけるということは今では一般的に行政が行うこととされていますが、当時はこの橋をかけるために藩は一切協力をしていません。つまり「通潤橋」は「住民自治の結晶」ともいえるわけです。「地域の自立」ということが言われている中、この「通潤橋」の歴史から私たちが学ぶことは大きいなあと思うと同時に、近世後期の村落社会の改編について卒業論文を書いた学生時代を思い出しました。

その後行われました「情報交換会」では、全国の景観保存にかかわる方々と意見交換を行いまして、11月に愛媛県で行われる全国大会のPRもあわせて行いました。

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翌日は現地視察ということで水荷浦の視察を行い、はじめに段畑を守ろう会の松田副理事長より説明を行った後、宇和島市教委文化課職員の案内のもと、現地視察を行いました。参加者のみなさんは一様に段畑と宇和海が織りなす美しい風景にみとれていたように思います。

(文責 まちづくり活動部門 研究員 谷本英樹)