研究員ブログ

四国西南開発特別委員会・観光委員会 講演会

7月20日(金)、高知県四万十市にあります新ロイヤルホテル四万十で開催されました「四国西南開発特別委員会・観光委員会 講演会」に、企画研究部門から武智主任研究員、河野研究員が、まちづくり活動部門からは谷本研究員が参加しました。

この講演会は、四国西南地域の地理的条件や、自然・歴史・一次産品など独自の地域資源を踏まえて、同地域が、産業活性化や観光振興、雇用拡大などに向けた地域を如何に図るかのヒントを得るために開催され、内容は次のようなものでした。

講演Ⅰ
テーマ 「四国西南地域の観光振興の方向」
講 師 株式会社JTB 事業創造本部 地域ビジネス事業部
     プロデューサー 本間義信 氏

講義Ⅱ
テーマ 「四国西南地域における産業振興戦略の方向」
講 師 高知大学国際・地域連携センター
     教授 坂本 世津夫 氏

ここではおもに講義Ⅰについての概要を報告いたします。 講義Ⅱにつきましては、講演の要旨と資料について、坂本先生のブログに掲載されていますので、そちらを参照してください。

講義Ⅰでは、国内旅行の現状と課題として、ここ数年の動向として国内旅行は低迷している一方で、海外旅行は順調であり、訪日する外国人旅行客も飛躍的に伸びていることから、これからは世界を相手にした観光地を目指す必要があると冒頭で述べられていました。

また、宿泊業者などのライバルは同業者だけでなく、高級家電などの旅行以外の業種もライバルであるという指摘はたいへん示唆に富んでいたように思います。お客さんの財布の中身は限られているわけですから、家電製品を購入するよりも旅行にお金を費やしてもらうような魅力ある観光地を目指さなければならないということでしょうか。

そして、団体旅行からグループ・個人旅行へのシフト、「物見遊山」から「地域との交流」を志向といったお客のニーズを的確にとらえない観光地は、いわゆる「負け組」になってしまうと警鐘を鳴らしておられました。

そして、そういう負け組の観光地にならないために、 これからの観光を意識した地域づくりに取り組むことが求められ、同じところに長期滞在する観光を志向するお客が少しずつ増えていることから、そのひとつのキーワードが「地域との交流(=異日常の体験)」であると述べられていました。

この地域との交流とは、訪れた地域の風習や文化を自分たちも住民たちと一緒に体験するというもので、地域との交流を行うことは長期滞在へとつながり、移住、ふるさと回帰、UJIターンへとシフトしていく可能性も秘めていると言えます。

ゆえに、この滞在型観光による地域との交流は、言うまでもなく「地域づくり」に直結していきます。

このような滞在型観光を目指した地域づくりを行ううえでの課題としては、以下の7項目を氏は挙げています。

(1)地域の魅力は活かされているか?

 地域の資源の発掘と見直し(地域学)を行い、住民自身が誇れる地域は観光客にとっても魅力的なところであり、地域の魅力を活かすような取組が求められます。具体例としては、「大分学」や「仙台学」などの地元学や、ご当地検定などがあげられることでしょう。

(2)ふるさとの原風景を大切にしているか?

 都会の人の旅のスタイルが、「人」「自然」「感動」「生きがい」「ふるさと」といったものを志向するものへと変化していることから、都会には地域独特の風景を大切にしていく活動(修景と呼ばれる景観の修復などをしながら、その地域のもつ固有の風景を大切にしていく取組)が求められます。

(3)まちなかが魅力的で賑わっているか?

 商店街がシャッター街となっているところが全国的に増えていますが、それは商店街が社会の変化に対応できていないところが多いからで、訪問者にとって魅力ある商店街をつくっていくための取組や、訪問者が歩いて楽しめるような取組が必要で、具体例として新潟県村上市の町屋外観再生プロジェクトやICウォークを紹介され、イタリアのまちづくりを参考にすべきとのご指摘がありました。

(4)食に徹底的にこだわっているか?

 地域に伝わる食文化を徹底的にこだわって提供することはたいへん重要で、地産地消や地域ブランドを意識した食文化による地域づくり活動は効果も大きいといわれ、「食」が充実すると、旅行者の満足度も上がり、リピーター化や滞在時間の延長、地域への経済効果も増大するそうです。由布院では「由布院18人の料理人たち」ということで「食」をつくる「料理人」にもこだわっています。

(5)各地域が美しい道と楽しい物語で繋がっているか?

 四国西南地域が進むべき戦略として、観光地を点から線へ、線から面へとしていく必要があると述べられ、具体的に四国西南地域をどのように売り出していくのかというプロモーションが必要であり、そのプロモーションの中で、今年は四万十にやってきたけど、来年は宇和島でといったように、四国西南地域全体で観光客をリピート化していく必要があると述べられていました。具体例としては、「四万十川ウルトラマラソン」や「街道物語」「竜馬脱藩の道」などといったものがありますが、そういったものをどのように活かしながら、四国西南地域のひとくくり(=面)として売り出していくのか、といったところが課題なのでしょう。

(6)人材誘致という考え方をもとう

 昔の大名は城下に産業を興すために職人をあちこちから誘致したという逸話をもちだし、いまこそ都会の住人やUターン希望者、団塊の世代の退職者と四国西南地域をつなぐ仕掛けが必要で、特にさまざまなスキルをもつ団塊の世代の退職は地域にとって地域づくりが活発化する好機であると述べられていました。この考え方は、当センターが主催した第24回政策研究セミナーの講師が話された内容とも似ていますので、こちらも参照してください。

(7)地域ぐるみの仕組みづくりができているか? 

 まちづくりで大切なところは、一部の人間だけが行うのではなく、少しずつ多くの人たちを巻き込むような活動をしていくことです。それは滞在型観光を目指す地域づくりでも同様で、持続可能な地域づくり活動を行う上では必要不可欠であると言えます。幸い、四国には「お接待」とい非常に高い「おもてなしの文化」もあり、この四国西南地域についても同様で、地域ぐるみの活動を行う上での素地は十分にあるのではないかと述べられていました。

 そして最後に、旅行者はよそ者(お客)ではなく生活者で(自分たちの生活を一緒に行う人)あるという意識をどれだけもてるかということが、観光関係者や行政関係者に求められていると締めくくっておられました。

 本間氏の講演は、観光業界を取り巻く社会状況の説明から今後の四国西南地域の進むべき方向性などについて、非常にわかりやすく説明していただいた上に、その内容についても非常に示唆に富んでおり、今後の南予地方の活性化の提言として受け止めるべきことが多かったように思います。

 この件についてのお問い合わせは、四国経済連合会まで。また、この講演時に本間氏から提示していただいた講演資料について詳細を知りたい方は、(財)えひめ地域政策研究センター(089-932-7750:担当 谷本)までお知らせください。

(文責 まちづくり活動部門 研究員 谷本英樹)