研究員ブログ

(財)日本経済研究所主催講演会の感想

6月19日に参加した講演会の感想を披露します。講演者は藻谷浩介氏で、テーマは“「地域間格差」は本当に拡大しているのか”でした。藻谷氏は日本政策投資銀行地域振興部の参事役で、政府関係委員を多数兼ねながら、各地で講演もされています。

内容は非常に面白いものでした。一例を挙げると、バブル崩壊後の「失われた10年」について、藻谷氏は全国的には少なくとも「失われた10年」の前半は「失われ」ていなかったのではないかと言います。個人所得や小売販売額は、バブル崩壊後も1996年頃までは増加基調で推移しており元気だったと。なぜか?大きな要因としては現役世代人口の増加です。その頃までは新規就業者数>退職者数でした。団塊ジュニアが社会に出て、得た収入を消費に回すことの方が、昭和一桁生まれの人たちが退職して、所得と消費を減少させることを上回っていたといいます。

また、地方に住んでいると、都会は地方とは違ってさぞかし景気が良いんだろうなあと思ってしまいますが、首都圏一都三県の人口動態を2000年と05年とで比較すると、“転入者数-転出者数”と“出生者数-死亡者数”はともにプラスで、総人口としては1百万人程度増加しているが、個人所得や消費に大きな影響を与える世代の人口(20~59才)は減少していることが確認できます。藻谷氏は、都会が一極集中的に繁栄しているのではなく、相対的な速度の差はあるものの、都会も地方も現役世代人口は総じて減少していることを指摘していました。

藻谷氏は調査にあたって、統計数字は絶対数で捉える(他人が適当に係数をかけてつくった指標は信用しない)、先入観を排除する(先入観を持っていると、それに符合する事象にしか着目しなくなる)ことなどを心掛けているそうです。

私も当センターの研究員として、調査をおこなうにあたっては、先入観にとらわれず、事実を確実に積み上げていかなければならないと強く思いました。なお、藻谷氏の講演等はインターネットで検索すれば多数ヒットします。年間400回以上登壇しているそうですから。

(文責 企画研究部門 研究員 越智隆行)